この日、わたしは"山で食べるカップラーメンの美味さ"を友達に共有したくて意気込んでいた。
ハイキングでほどよく疲労し始めたときだった。いざ、お昼の時間になり準備をしようとしたところ、わたしは重大なミスに気がつく。…そう、お湯を沸かすための鍋を忘れたのだ。本当に、「ごめん」としか言いようがない。
「山の飯といえば、カップラーメンだろ!」と豪語したのにもかかわらず見事に鍋を忘れたわたし。そんな絶望のなか、偶然に出会ったのが、このカフェテリアだ。
中に入ってみるとシンとしていて、でも温かみがあって、机や椅子からほのかに自然の香りがして、厨房で飲み物や軽食をつくる音がとても心地良かった。お湯をカップに注ぐ音。焼いたパンを切る音。ひとつひとつがBGMのようで冷え切った身体に良く響いた。
わたしたちは、さっそく荷物を降ろしてから券売機でカフェオレとパンを買った。そして、食券をお店のひとに渡す。空腹のときは、ここからが勝負だ。1秒、1秒が長く感じる。あのBGMが空っぽの胃にダイレクトに響いている気がする。
やがて、湯気をまとったカフェオレとパンが私のもとにやってきた。
"眼福"これに尽きる。そんな瞬間だった。
早速、食べてみる。「うん、美味しい。」目の前で同じメニューを食べている友達も同じ感想だったようだ。そこからは無心でむさぼった。あっという間にカフェオレもパンも胃の中に収まっていった。お腹も心も満たされて、一息ついたときにこんなことを思った。
"どこで食べるか。だれと食べるか。
それがきっと、最高の隠し味になる""
そういえば、学生時代にこんな経験をした。就活の終わった大学4年の夏ごろから暇があれば海外をふらふらしていた。電車の中で食べる1€もしないカッチカチのフランスパン、パサパサな食パンがなぜかとても好きだった。一泊500円くらいのゲストハウスで知らない人たちに紛れてつくるご飯が最高に美味かった。
あの旅での食事はいつもコスパ重視だったけど、「あの環境」、そして「キッチンでする何気ない会話」が最高のスパイスとなりわたしの料理を仕上げてくれていた。だからとても美味しかったのだと思う。
今は、社会人となり、なかなか海外には行けていないけれど、こうして、山の中で出会ったカフェテリアで大切な人と美味しいご飯を食べることができてわたしは幸せだ。
そんなことを思った瞬間だった。
↓今回のおはなしの中のカフェテリア
『王ヶ頭ホテル 日帰りカフェ』
https://www.ougatou.jp/cuisine/cafe/